大人は子どもたちに、沢山のお話を読み聞かせます。それは、話の内容から優しい気持ちや賢い生き方を学び、情緒豊かに成長して欲しいと願うからです。
絵本は幼児の生活習慣から友達との関わり方や思いやりまで、たくさんの事を教えてくれます。中でも童話には、人としての在り方や生きる上での知恵がたくさん盛り込まれています。読んでいる大人の方がハッと我が身を見つめ直した、という経験もあるのではないでしょうか。
このような童話から得られる教訓は、読み聞かせて終わりにするのは勿体ないですよね。
日常生活の中で、子どもが童話と同じような場面に遭遇することは多々あります。その時の行動が適切でなかった場合、咎めたり諭したりしても、なかなか子どもは聞く耳を持ちません。そんな時、童話の内容を例にとって話をすると、子どもなりに理解が進み興味を持って耳を傾けてくれます。
その後子どもの行動がすぐに変わるとは限りませんが、植物に水をやるような感覚で気長に取り組み、じっくり子どもの心を育てませんか?こちらでは、子どもに伝えたいおすすめの童話と教訓をご紹介します。
子どもの心を育てるおすすめ童話5選
アリとキリギリス(イソップ童話)
アリとキリギリスは、日本でもとても有名ですね。
夏の暑い日もアリは毎日真面目に働き、寒くて食べ物がなくなる冬に困らないよう、準備に励みます。一方キリギリスは、毎日歌を唄い遊び暮らしていました。やがて冬がやってきますが、アリは夏の間に蓄えた食料のおかけで快適な毎日を過ごすことができました。しかし夏の間遊び暮らしていたキリギリスはお腹が空いて痩せこけて、たまらずアリに助けを求める、という内容です。
結末は数パターンあるようですが、共通して言えることは「やるべき事をやるべき時に、コツコツ続ける大切さ」です。
キリギリスのように、目先の楽しみの誘惑に負けてしまうと、後々よい結果は出ないでしょう。 実生活において、子どもは我慢をすることが難しく、目先の遊びを優先してしまいがちです。キリギリスのような人生はとても楽しいと思いますが、それにはリスクが伴うことを、このお話を通して学んで欲しいですね。
金の斧 銀の斧(イソップ童話)
むかし、木こりの男が川のそばで仕事をしていると、誤って斧を川に落としてしまいました。すると川の中から金の斧を持った神様が出てきて、「おまえが落としたのは、この金の斧か?」と聞きました。
木こりが違いますと答えると、神様は次に銀の斧を持ってきて「おまえが落としたのは、この銀の斧か?」と聞きました。
木こりがそれも違うと答えると、今度は鉄の斧を持ってきました。木こりが喜んで自分の斧であることを伝えると、その正直な様子に感心した神様は、金・銀・鉄の斧を全て木こりにあげました。
木こりが村に帰ってこの話をすると、仲間のひとりがうらやましく思い、同じことをしようと川のほとりに行きました。そして、わざと斧を川に落としました。
すると神様が金の斧を持ってきて、落としたのはこの金の斧かと聞きました。その男がそうですと答えると、神様も金の斧も姿を消してしまいました。欲に目がくらんで嘘をついた男は、金銀の斧どころか、自分の斧まで失ってしまった訳です。
小学校で道徳の授業にも取り上げられるこのお話は、正直であることの大切さを説いています。
子どもの世界でも嘘ばかりつく子は信用されず友達がいない、ということもあります。嘘でみんなの注目を集めたり得をしたりして一時的にいい思いをしても、いずれ自分の不利益になるということをしっかり伝えたいですね。
にくをくわえた犬(イソップ童話)
ある犬が肉屋の店先から肉を盗み、橋の上まで逃げてきました。遠くまで逃げてきたことに安心した犬が、ふと橋の上から川を見下ろすと、川の中から同じように肉をくわえた犬がいました。それは水面にうつった自分の姿だったのですが、犬はそのことに気付いていません。
それどころか相手の肉の方が大きく感じた犬はうらやましく思い、おどかして奪ってやろうと考え、大きな声で吠えました。すると、くわえていた肉が川の中に落ちて流れて行ってしまい、川にはがっかりした姿の犬がうつっていました。
これは、自分が持っているものに満足できず欲張って他人のものまで奪おうとして、結果的に自分が損をするというお話です。子どもはおやつを欲張ったがために自分のおやつを落としてしまったとか、他人のおもちゃまで欲しがり癇癪を起こして自分のおもちゃを投げて壊してしまったなど、よく似た経験を持っているのではないでしょうか。
本能のままに生きる子どもの欲は無限大です。それを宥める手段のひとつとして、このお話しを聞かせてあげてはいかがでしょうか。
北風と太陽(イソップ童話)
ある時、北風と太陽がどちらが強いか言い争っていました。そこへひとりの旅人が歩いてきたので、その旅人の上着を脱がせた方が勝ちという勝負をすることにしました。
先に北風からやることになり、北風は冷たくて強い風を力いっぱい旅人に吹きつけました。ところが旅人はしっかり上着を押さえたので、とうとう脱がせることができませんでした。
次は太陽の番です。太陽はぽかぽか温かい光で旅人を温め、次第に暑くなった旅人はとうとう上着を脱ぎました。この勝負は太陽の勝ち、というお話です。
子どもは兄弟間や友達関係の中で、力ずくで物事を通そうとすることがあります。時にそれは正論で、大人から教わった正しい考えであり自分は間違っていないと主張し譲らないこともあるのではないでしょうか。まるで北風のようですね。
そんな時、その考えは間違ってはないけれど、お互いいやな気持ちにならずに問題を解決できる、太陽のような方法を考えようと促せたらいいですね。
みにくいおひめさま
とある王国のたったひとりの王女さまであるエスメラルダは、優しい両親と豊かな生活に恵まれ、何不自由なく暮らしていました。ただひとつだけ、王女さまには恵まれていないものがありました。
それは美しさです。性格もわがままで傲慢でしたので、見た目と内面のどちらも美しくなかったのです。周りの者は王女さまがみにくいことを本人に悟られないよう努めますが、ある時王女さまの知るところとなり、国は大騒ぎになります。
王さまは、王女さまを美しく変えてくれる人を懸賞金をかけて探しますが、そこに名乗りをあげたのは、貧しいながらも5人の娘を育てているグッドイット夫人でした。
グッドイット夫人とその家族とのつつましい暮らしの中で、わがままで傲慢な王女さまの気持ちや行動が変わりはじめ、それは王女さまの表情にも変化をもたらしました。約束の期間を経て国に帰る頃には、王女さまはすっかり美しくなっていました。
自分にとって居心地の悪い状況になった時、その原因を自分以外の何かに転嫁するのは簡単ですが、それでは状況は良くなりません。 王女さまは他人任せではなく自分で考え、それを行動に移すことで状況を好転させることができ、それは大きな自信となり表情や立ち振る舞いに表れました。
このお話が子ども達が自分の内面に目を向け、自分自身の考え方や行動を変えるきっかけになれば理想的です。
さいごに
今回はイソップ童話を中心にご紹介しました。イソップ童話は実に2000年以上前に生まれ、日本に伝わったのは戦国時代といわれています。これほどの長い年月語り継がれてきたということは、時代を経ても変わらない、人として普遍的な考えがベースになっているからでしょう。
童話の教訓は大人にとっても学びがあります。ぜひ家庭内で共有し、次世代に受け継いでいきたいですね。
文:Miwa